Azalove item book5

『まいごのアザラシをたすけて!〜よごれた海とたたかうアザラシ病院の人びと〜』は、オランダ北部のピーテルブーレンにあるアザラシの保護・リハビリ施設を舞台にしたノンフィクションの作品です。1994年に平澤一郎さんが偕成社から出版した本書が、多くの方々のリクエストに応じて復刊ドットコムより緊急復刊しました!

小さな一歩から始まったアザラシ病院の物語

本書は、1971年に一人の女性(レイニー所長)が自宅で始めた小さな活動が、やがて数百頭のアザラシを救う専門病院へと発展していくまでの歩みを文章と写真で丁寧に描いています。

児童向けに書かれてはいますが、内容はやさしい話だけではありません。保護活動の難しさや、環境汚染という問題とどのように向き合っていくのかについても考えさせられる構成になっています。

嵐の中で母親とはぐれてしまった赤ちゃんアザラシや、汚染などの影響で弱り病気になったアザラシがどのように発見され、保護されてから治療やケアを受けて再び自然へと帰されていくのか。その一連の現場の営みが具体的に記されています。

アザラシを支える人たち

本書の主役とも言えるのは、レイニー所長をはじめとする施設の人々です。獣医のリースやスタッフのアニタなど、彼らはアザラシの健康状態を見極めながら必要な治療や給餌、環境調整を行い「どのタイミングで、どのように自然へ返すべきか」という難しい判断と常に向き合っています。

また、センターの職員ではないにもかかわらずアザラシの保護に深く関わる船長・ジョンの存在も欠かせません。センターからの保護要請に応じるだけでなく、自ら担当する海域を日常的にパトロールし、迷子になったアザラシをいち早く発見・保護する、まさに「保護の達人」と呼びたくなる存在です。施設の人々と地域の協力によって保護活動が成り立っていることが強く伝わってきました。

アザラシの悲鳴は人間への警告

読み進めるうちに、アザラシの体調や行動の背景にある生態だけでなく人間活動が及ぼす影響にも自然と目が向きます。たとえば1988年に起きたアザラシの大量死では、主な原因はCDVウイルスでしたが、その背景には人間による影響が複雑に絡んでいました。世界的な魚のとりすぎによって餌や住処を失ったアザラシが広範囲に移動したことでウイルスが拡散したこと、さらに海洋汚染による有害物質の影響でアザラシの抵抗力そのものが弱まっていた可能性も指摘されています。

アザラシの異変は、私たち人間の行動が引き起こした結果でもある。本書はそうした現実を静かに突きつけてきます。私たちがどれだけアザラシの悲鳴に耳を傾けられるのか、問いかけられているように感じました。

積み重ねてきた時間が支える救助活動

また本書は、ピーテルブーレンアザラシセンターの歩みを知るうえでも貴重な資料です。施設がどのように立ち上がり、どんな困難を乗り越えて成長してきたのか、当初の苦労や地域の人々との関わりが具体的に描かれています。その歴史を追うことで、アザラシ救助が単なる善意ではなく長年の試行錯誤と実践の積み重ねによって支えられてきた活動であることが伝わってきます。

アザラシ好きはもちろん、動物保護や自然環境に関心がある人にとっても、おすすめの一冊です。