アザラシも、いろんな声を出す!

水族館や映像でアザラシを見ると、「アウアウ」と鳴いているイメージがありますよね。けれど実際の鳴き声は、種類や場面によってびっくりするほど多彩です。可愛らしい「キュー」という声を出すこともありますし、それだけではありません。飼育映像の中には比較的かわいらしい声が聞けるものもあれば、「グエーグエー」「ボゥボゥ」といった低く太い声が印象的な例も報告されています。

種類によって“声のキャラ”も違っていて、犬みたいに吠えるように鳴くものもいれば、ちょっと不思議で、まるで幽霊が出てきそう…と感じるような音を出すものもいます。たとえば北極圏に生息するアゴヒゲアザラシは、水中で「ひゅ~どろどろ」と表現されるような独特の音を発することが知られています。

鳴き声は何のため?

アザラシたちは、声を使って周囲にいろいろなメッセージを届けています。代表的な用途を、いくつか見てみましょう。

求愛・繁殖期の鳴き声

繁殖シーズンになると、オスのアザラシは鳴き声で存在感をアピールします。海岸に集まる種類では、大きな声で縄張りを主張したり、メスに向けて“ラブコール”のような鳴き方をしたりします。

北極海に棲むアゴヒゲアザラシのオスは、発情期だけ喉を風船のように膨らませて、水中で神秘的な歌声を響かせることがあるそうです。一定のパターンをくり返すその“歌”に、メスが惹きつけられて集まってくるのではないかと考えられています。さらに繁殖期はオス同士の駆け引きも増えるため、互いに大声で威嚇し合い、自分の強さを示す場面も見られます。

警戒・威嚇の鳴き声

アザラシは危険を感じたときや、ケンカになりそうなときにも声を上げます。驚いたときには、子どものアザラシが甲高い悲鳴のような声(いわゆる警戒音)を発して、親や仲間に「危ないよ!」と知らせます。

また、ナワバリや子どもを守ろうとする大人のアザラシは、低く荒い吠え声やうなり声で相手を威嚇することがあります。可愛い見た目からは想像しにくいですが、そこはやっぱり野生の動物。必要なときはしっかり“強い声”も使うんですね。

親子間のコミュニケーション

生まれたての赤ちゃんアザラシと母親は、鳴き声を通して強い絆を作っていきます。母親は自分の赤ちゃんの声を覚えていて、何千頭ものアザラシが集まる大集団の中でも、鳴き声を手がかりに我が子を見つけ出せるほどだと言われています。

エサ取りから戻った母親はまず大きな声で子を呼び、赤ちゃんも「メェー」という甘えた声で鳴き返し、お互いの居場所を探し当てます。この“呼びかけと返事(コール&レスポンス)”は、再会の合図でもあり、匂いや姿と合わせて親子が互いを認識する大切な手段になっています。

陸上と水中で変わる、声と伝え方

アザラシは陸と海、両方の世界で暮らす動物です。実はこの環境の違いによって、声の出し方や「声の伝わり方」も少し変わってきます。

水中では音が空気中よりもずっと速く伝わり、遠くまで届きやすいという特徴があります。そのため海の中では、陸上以上に“音でのコミュニケーション”が頼りになります。視界の利きにくい暗い海中でも、声を手がかりに仲間やパートナーを探せるわけですね。

水中で鳴くアザラシの声は、陸上で聞く声とはまた違った雰囲気があります。高く響く笛のような音もあれば、低くうねるようなうなり声もあり、バリエーションはとても豊か。前述のアゴヒゲアザラシのように、水中で長く複雑な“歌”を響かせる種もいます。

一方で陸上では、風や波の音に負けないように、低くて大きい声が目立ちやすい傾向があります。たとえば北米沿岸に集まるゾウアザラシのオスは、鼻先が象のように長く発達していますが、これは巨大な鼻(プロボスキス)を共鳴器として使い、声を増幅させるためだと考えられています。成熟したオスが膨らんだ鼻で発する怒号は、海岸中に響くほどの迫力だそうです。

さらに水中では、息継ぎができないぶん「効率よく音を出す工夫」も注目されています。たとえばクラカケアザラシは体内に空気のう(エアサック)を備え、アゴヒゲアザラシのオスは首のあたりを膨らませて空気をため込み、それを使って水中で鳴くと考えられています。こうした“鳴き声のしくみ”のおかげで、水中でも比較的長く音を出せるのかもしれません。ただ、詳しいメカニズムについては、まだ研究途上の部分も多いようです。

まとめ

普段は静かに見えるアザラシたちも、実は状況に合わせてしっかり“声”を使い分ける、おしゃべり上手な一面があります。可愛い鳴き声から迫力のある雄叫び、水中に響く神秘的な歌声まで、そのレパートリーは想像以上。

次に水族館や野生の映像でアザラシが鳴いている場面に出会ったら、「いま、何を伝えようとしているのかな?」と想像しながら耳を澄ませてみてください。きっと、今までよりもっと身近に感じられるはずです。