水族館や映像で目にするアザラシは、陸上で丸くなってゴロゴロ寝そべっている印象が強いかもしれません。ところが、水の中に入ったアザラシは、陸上の姿からは想像できないほど俊敏に動き回ります。この「陸ではのんびり、海ではキレキレ」というギャップには、ちゃんと生態学的に筋の通った理由があります。陸で見られる“ゆったり時間”と、水中での活発な生活のバランス。その秘密をのぞいてみましょう。
陸上での行動:ゴロゴロするのにもワケがある
浜辺で休息するゴマフアザラシ。頭と尾びれを持ち上げた姿勢は「バナナポーズ」と呼ばれ、体温調節のためによく見られる姿です。
アザラシは多くの時間を、海から上がった陸地や氷の上で過ごします。一見すると「怠けてる…?」と思ってしまいそうですが、実はこの時間には大切な役割があります。陸上での主な目的をまとめると、こんな感じです。
日光浴と休息
冷たい海で活動したあと、陸に上がって太陽の熱を浴びながら体を休めます。動かずにいることでエネルギーの消耗を抑えられますし、日なたで体を温めれば体温も効率よく保てます。さらに、陸に集団でゴロゴロすることで、互いに見張り役になって外敵の接近に気づきやすくなる、という見方もあります。
換毛(毛の生え替わり)
アザラシには年に一度、毛皮が新しく生え替わる換毛期があります。この時期は長時間、陸や氷の上にとどまることが多くなります。体を乾かして外気にさらし、皮膚の表面温度を上げることで、古い毛をまとめて抜き、新しい毛を生やしやすくするためです。換毛期にじっとしているのは、「毛をきれいに入れ替える」ための合理的な過ごし方なんですね。
繁殖と子育て
アザラシはイルカやクジラと違って、出産のときは必ず陸地(または氷上)に上がります。安定した足場で子どもを産み、約2週間(種によってはそれ以上)にわたり、陸上で授乳しながら大切に育てます。この間、母親が海に出てエサをとらず、絶食に近い状態で子育てに集中することもあります。
こうして見ると、アザラシが陸上で動かずにいる時間は、ただの“のんびり”ではありません。陸では移動が得意ではない一方で、日光浴・休息、換毛、繁殖といった重要イベントを安全にこなすための場所になっているのです。浜辺で寝そべる姿は、厳しい海での生活を支えるための「充電タイム」と考えると、ちょっと見え方が変わってきます。
水中での行動:泳ぎ・狩り・旅をこなす俊敏なハンター
一方で海に戻ったアザラシは、まさに“本領発揮”。水中では優れた泳ぎ手として、生き生きと活動します。主な水中での行動は次の通りです。
巧みな泳ぎと狩り
アザラシは魚やイカなどを主なエサとする肉食動物で、水中では獲物を追って活発に泳ぎ回ります。種によっては1,500mほどの深海まで潜り、約2時間も続けて泳げる例があるとも言われます。暗い海底でもヒゲ(触毛)で獲物の気配を探り、確実に捕らえる——海のハンターらしい一面です。
長距離遊泳と回遊
アザラシの中には、季節や繁殖のタイミングに合わせて長距離を移動する種類もいます。食べ物が豊富な海域や、繁殖に向いた海岸を求めて、何百キロも移動することがあるのです。こうした旅を支えるのは、水中で泳ぎ続けられる体力と持久力。見た目の“ころん”とした可愛さからは、なかなか想像できませんよね。
水中での繁殖行動
種によっては、水中で求愛や交尾が行われる場合もあります。たとえばゴマフアザラシは水中で交尾し、メスは約10か月の妊娠期間を経て陸上で出産します。
二つの環境を使い分ける、賢いバランス
陸と海という正反対の環境を行き来するアザラシは、その場所に合わせて“いちばん得する過ごし方”を選んでいます。海ではしっかり活動してエサをとり、生きるためのエネルギーを稼ぐ。一方で陸にいる間は、余計なエネルギーを使わず体力を温存する。太陽の下で体を温めれば、体温維持にかかるコストも節約できますし、陸上にいることでシャチやサメといった海の捕食者に襲われにくくなる面もあります。
アザラシ科の体は、陸上ではどうしても機敏に動けません。でもそのぶん、海での生活に特化する方向へ進化してきました。海では強いヒレを活かして俊敏に泳ぎ、陸ではしっかり休む——言ってみれば「海で大いに稼ぎ、陸で節約する」スタイルです。
だから浜辺でゴロゴロしている姿も、ただの怠けではなく、海での過酷な活動に備えるための大切な休養時間。そう思って眺めると、アザラシの“のんびり顔”が、なんだか頼もしく見えてくるかもしれません。