
「可愛い」で止まらずもう一歩“アザラシの世界”に踏み込んでみたいときにおすすめの書籍です。図鑑や写真集で満たされた心に、物語の形でスッと刺さってくるのが五十嵐美和子さん作・絵の絵本『ヤマネコとアザラシちょうさだん』です。アザラシの愛らしさを堪能しながら読み終わるころには海の見え方が少し変わる。そんな一冊。
ビニール袋の衝撃——“かわいい”の奥にある現実
物語はいきなり“事件”から始まります。海辺でリュックを背負ったアザラシが倒れている。助けた時計職人のおじいさんが手当てをすると、口の中から出てきたのは——魚じゃなくてビニール袋。食べ物と間違えて飲み込んでしまったらしいのです。可愛い絵柄だからこそこの場面の衝撃がちゃんと胸に残ります。
元気を取り戻したアザラシは、リュックから“図面みたいな紙”を取り出して何かを必死に伝えようとする。でも人間にはアザラシ語が分からない。そこで登場するのが世界中の国や動物の言葉が分かるヤマネコ。通訳(というか翻訳チート)を得たことでアザラシたちの切実な事情が明らかになります。海にはごみが多く仲間たちが“間違って食べてしまう”ほど困っている。だから彼らは海を調べる「アザラシちょうさだん」になり、海を掃除する機械『ウミキレイ』を考え出した——ただし、組み立てには人間の手が必要で……。ここから「人間+ヤマネコ+アザラシ」のチーム戦が始まります。
この絵本のいいところは環境テーマを“正しさ”で押してこないところかなと思います。主役のアザラシたちはかわいそうな存在として描かれるだけじゃなく、自分たちで調べ、考え、動く。その姿がアザラシ好きにはたまりません。「もちもちしてて愛おしい」だけでなく「この子たち、賢くてたくましい…!」という尊敬が芽生える感じです。レビューでも可愛いのに社会的で現代的なテーマが効いている点が語られています。
「遠い話」を「自分ごと」に変えるアザラシの物語
海辺で見かけるごみ、ニュースで聞く海洋汚染——知ってはいるけどどこか遠い。そこをアザラシがリュック背負って駆け込んでくる物語にして、こちらの心の距離を一気に縮めてくれます。海の絵や映像を見るときに「この海、アザラシたちにとって安全かな?」と考えるきっかけになったらいいなと思います。
アザラシ好きの自分用にも、アザラシに興味を持ち始めた人にも気持ちよくおすすめできる一冊です。
書籍情報
著者:五十嵐 美和子作・絵
発売日:2022年01月19日
出版社:PHP研究所
ISBN:978-4-569-88032-7